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人はなぜアレルギーになるか?― 衛生仮説


オーストリア・ザルツブルク大学で10年以上にわたって、地元の子どもたちに対して興味深い調査がおこなわれている。きっかけは1994年に国際機関ISAAC(国際小児喘息・アレルギー調査)がおこなった調査でザルツブルグの農村地帯でアレルギーが少ないことがわかったからである。追跡調査で農家の子は農家以外の子に比べ、花粉症の割合が3分の1、喘息の割合が4分の1できわめて少なかった。原因について環境、運動、食事などいろいろ検討されたがしばらくわからなかった。その後の追跡調査で農家以外のこどもでも普段から家畜小屋によく出入りする子にアレルギーが少ないことがわかった。農家の子どもでもアレルギーの子がいるが、この子どもたちの多くは農作業をおこなわず、家畜の世話もしていない子どもだということもわかった。つまり重要なのは農家に暮らすことではなくて定期的な家畜との接触だというのがわかった。それでは家畜小屋のどこにアレルギーを防ぐ物質が存在するのか。ミュンヘン大学のエリカ・フォン・ムーチウス博士の研究グループはドイツ、オーストリア、スイスの3カ国で800人以上のアレルギーの子どもとアレルギーでない子どもの普段生活している部屋のホコリを集め、さまざまな物質を調べた。調査の結果、子どもの家が農家であるかないかにかかわらず、アレルギーでない子どものマットレスからは、ある共通成分が見つかった。それは細菌に含まれる「エンドトキシン」という成分だった。エンドトキシンがもっとも少ないマットレスでは花粉症発症率は15%、もっとも多いマットレスでは発症率はわずか2%だった。エンドトキシンが多く含まれるマットレスで寝ている子どもほど花粉症になりにくいことがわかった。エンドトキシンの発生源は家畜の糞で、大腸菌などの細菌をおおっている膜の成分でその細菌が死んでバラバラになると発生する。ドイツやオーストリアでは家族経営の農家がたくさんあり母親と父親が畜舎で家畜の世話をしたり、乳を搾ったりといろいろな仕事をこなしている。母親はまだほんの幼いうちから子どもを畜舎に連れて行く。当然ながら子どもの服や髪にエンドトキシンがつく。世界でもっともアレルギーが少ないといわれるモンゴルの遊牧民にとって家畜は食料であると同時に、子どもたちにとって貴重な遊び相手でもある。そればかりか家畜の出す糞は貴重な燃料にもなっている。そして、その燃料の家畜の糞を集めてくるのは、主に子どもたちの役目である。モンゴルの子どもたちは知らず知らずのうちにエンドトキシンに囲まれた暮らしを送っていたのである。ではエンドトキシンをたくさん浴びればアレルギーにならないかというとそううまくはいかない。高濃度のエンドトキシンを浴びてそれが血液中に入ると、高熱やショック症状を引き起こすことがあることがわかっているからだ。うまれたばかりの赤ちゃんの免疫細胞ははまだ外的からなにも刺激を受けておらず役割がきまっていない。いろいろな細菌やアレルゲンに接していくうちに細菌を撃退するための「細胞性免疫」(I型ヘルパーT細胞)あるいは「IgE型免疫」(U型ヘルパーT細胞)へと変化していく。この2種類の細胞は、それぞれの役割の違いから体内で勢力争いをくりひろげている。このせめぎあいによって決まる両者のバランスが一生にわたるアレルギーのなりやすさを決めている。乳幼児期にできるだけ多くのエンドトキシンに接触していれば「細胞性免疫」が増加する。このことが将来のアレルギーになりにくい体質を獲得することになる。

2011.3.26. NHKスペシャル 「病の起源 アレルギー」より

 

 

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