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新型コロナウイルス その15 内在性ウイルス


 今日は新型コロナウイルスに世界が過酷な現実に直面している現在、ウイルスが人類の進化に深くかわってきたというお話をします。今から100年以上前、19世紀後半に、グレゴール・ヨハン・メンデルが遺伝の法則を発見しました。その頃まだ、遺伝子という概念はありませんでした。トーマス・ハント・モルガンらのショウジョウバエを使った研究で、遺伝子が染色体という細胞の核の中にひも状に見える構造物に、あたかも数珠つなぎになっているということがわかりました。染色体はタンパク質とDNAで構成されていますが、遺伝子の本体がDNAであると分かったのは20世紀中ごろです。1953年にワトソンとクリックによってDNAが二重ラセンで自己複製に都合のいい構造であることがわかりました。1990年に、アメリカのエネルギー省と厚生省によりヒトの全塩基配列を解析するヒトゲノム計画が発足し、2003年には99.99%が解析され終了しました。ヒトの核ゲノムは約31億塩基対あり、細胞核内で24種の線状DNAに分かれて染色体を形成していることがわかりました。「新型コロナウイルス その13」にも触れましたが、生命とは「自己複製」と「物質交代」のできる物質です。ウイルスは「自己複製」はできても「物質交代」はできません。そのため他の宿主の助けがいります。入り込まれた宿主にとっては、ウイルスは厄介者で、病気を引き起こし、時には生命の危険にもさらされます。生物がウイルスをうまく排除できればいいのですが、レトロウイルスなどいくつかのウイルスは生物のDNAに飛び込んで自らの遺伝情報を組み込んで居座ってしまいます。これを「内在性ウイルス」といいます。内在性ウイルスはヒトゲノムの約8%を占め、そのうち数%がヒトの生命活動に深くかかわっていると考えられています。哺乳類は母親が赤ちゃんという「異物」を、胎盤を使って栄養や酸素をおくって守り育てるという特徴があります。実はこれにレトロウイルスが深くかかわっています。約1億6000万年前に哺乳類の祖先にウイルスが感染し「PEG10」という遺伝子を持ち込みました。PEG10をノックアウト(機能停止)させたマウスでは胎盤ができません。母親が赤ちゃんを産むためにはPEG10は必須の遺伝子です。哺乳類でも卵を産むカモノハシにはPEG10がありません。約1億5000万年前に「PEG11」がもちこまれ、レトロウイルスのエンベロープタンパク質が胎盤の栄養膜細胞の合胞体形成に深くかかわっていることがわかっています。もし、レトロウイルスに感染していなければ、胎盤で赤ちゃんを育てる哺乳類の祖先は誕生していなかったことになります。過去5000万年の間に10種類以上のウイルスがさまざまな動物のゲノムに入り、それぞれの胎盤ができました。サルの仲間で見つかった「シンシチン2」は約4000万年前に感染したウイルスが原因です。さらに約3000万年前にヒトやゴリラに進化する道をたどった霊長類の祖先にはウイルスが「シンシチン1」を送り込んだことがわかっています。このように、人類の進化の節目・節目にウイルスの感染がかかわっています。ウイルスは胎盤だけでなく、脳や消化管などの臓器の形成、体の形や色など生物の進化の過程に深くかかわってきました。脊椎動物では特に内在性レトロウイルスが感染した動物のDNAに組み込まれやすいことがわかっています。他にもボルナウイルス、パルボウイルス、フィロウイルスなどが見つかっています。このように、人類の進化の過程で、過去にたった一回だけジャンプしてヒトゲノムに入り込んだことが、幸運にも人類の誕生につながったと考えられます。ウイルスは人類の「進化の伴走者」ともいえます。


2020.6.3. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友

 

 

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