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脱炭素狂騒曲 その50 パンドラの箱
1979年の米国スリーマイル島(TMI)原発事故処理では、11年後に溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)をほぼ取り出すことに成功しました。福島第一原発のデブリは3基あるので、その3倍の30〜40年かかるとみて、2011年に「2051年までの廃炉完了」を政府と東京電力は掲げました。しかし、スリーマイル島では、圧力容器に水を張り、放射線を遮った状態で作業できました。福島の事故はデブリが圧力容器の底を突き破って広がっています。その作業の難易度は比較になりません。そもそも、「廃炉」とは何をさすのか、政府も東電も明確にしていません。2011年の「原子炉施設の解体」という記述は徐々に不明確になり、2015年度版からは事実上消えています。それ以来、作業がおこなわれていますが、100〜200年単位の話で、2051年までにデブリの回収が終わるなどと考えている専門家は誰もいません。「汚染土の最終処分期限45年」や「51年廃炉完了」も混乱下で一部の人々が決めたことです。自分の現役時代に処分が完了するなどと考えている東電の社員は誰もいません。これらのことはメディアにも取り上げられませんし、メディアも触れたくないのが本音です。目的も終着点も見えない、いわゆる「パンドラの箱」です。昨年作られた政府のエネルギー基本計画では「核燃料サイクル計画」の項目から「高速炉」という言葉がついに消えました。原発で使った燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、発電に使う核燃料サイクルは70年前の原子力長期計画で掲げられました。プルトニウム利用の本命とされたのが高速増殖炉でした。発電した以上にプルトニウムが生まれ、半永久的に使い続けることができ、廃棄物もそれほど残らないというのが思い描いた理想でした。ところが、1990年に「もんじゅ」が事故を起こし、いき詰まってしまいました。現在では「増殖」が消え、廃棄物の「減容」や「有害度の低減」が目的となりました。プルトニウムは核兵器に転用されうる物質でもあります。原子力の利用を「平和目的に限る」と法で定める日本は日米原子力協定が延長された2018年に「利用目的のないプルトニウムは持たない」とする原則を改めて確認し「保有量を減少させる」という方針を決めました。しかし、現在日本のプルトニウムは44.4トンでいまだ、高い水準にあります。しかし、高速炉が頓挫した現在、プルトニウムを混ぜたMOX燃料によるプルサーマルで細々と消費するしかありません。電気事業連合会では、30年までに少なくとも12基の原発でプルサーマルを行う方針ですが、現状で可能なのは4基です。現在までに再処理にかかった費用は15兆円を超えました。その上、プルトニウムを多く含む使用済みMOX燃料の再処理技術はまだ確立されていません。いずれにせよ膨大なコストをかけて廃棄物として処分せざるを得ません。英国では昨年、100トン超のプルトニウムを廃棄物として地中に処分する方針を決めました。日本では3自治体で調査が進んでいますが、処分場が決まっても、原発を運転する限り、廃棄物は増え続け、いずれいっぱいになります。1400万立方メートルに及ぶ除染土の問題もあります。日本の電源構成における原発の寄与率は、福島第一原子力発電所事故前は約30%でしたが、現在では約6〜8%にまで下がっています。家庭で使われる電気代の殆どが、原発の廃炉や再処理に使われているといっていいでしょう。こんな中、政府はまた新たな原発を作ろうとしています。それだけではありません。約200日分の備蓄があるとしても、実際に戦争が長引いて、ホルムズ海峡が現状のまま続けば、世界経済は崩壊します。「終末時計」は今年1月、人類滅亡まで「残り85秒」となっていましたが、来年1月には「終末」を迎えているかもしれません。
2026.3.13. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友
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