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邂逅 その1 腕


 ほとんど車も通らない田舎で育った私が、初めて人の死体を見たのは、小学2年生の時でした。夏も終わりごろだったと思います。葦はイネ科の植物で春から夏に川のほとりで群生しますが、秋口になると、葉は落ちて、枯れた枝だけが一面に残り、川の両岸にうっそうと茂っています。小学生ですから、葦のほうが高く、向こう岸は見えません。ワイワイ言いながら、葦の枝をちぎりながら轍を歩いていました。誰かが、葦の枝とは違って、地面に突き刺さっている棒のようなものを見付けました。みんなで近寄ってみると、それは人の腕でした。体半分以上が横になって、沼地に埋まっていました。髪が長く、若い女性だということはすぐにわかりました。さあ、大変です。日も暮れかかっていて、みんなで相談して、私が見張り番をすることになりました。他のみんなは一番近い家まで報告に行きました。私は、ただその腕を眺めながら、じっとみんなが来るのを待っていました。しばらくすると、もう当たりは真っ暗で、手に懐中電灯を持って大人たちが次々と集まってきました。とても長い時間に感じましが、不思議となんの感情もわいてきませんでした。医学部を卒業して、最初に入ったのが呼吸器・アレルギー内科でした。大学院に入りましたが、大学院の研究は臨床の合間にするだけで、実際は救命救急センターとの往復だけでした。現在、働き方改革で医師も例外ではありません。医師の労働時間は年間960時間、月間100時間未満と定められています。私は大学内にある官舎で寝泊まりしているわけですから、実働時間は年間8760時間です。国際アレルギー学会が医局主催で京都であったので、大学病院を離れたのはその時ぐらいです。大学には大学院の月謝を払いながら勤務しているため、大学病院から給料は出ません。そのため、土曜午後から月曜の朝6時までは、和歌山市の休日診療所にアルバイトに行っていました。和歌山市は珍しい自治体で、理由はよく分かりませんが、休日や祝日はすべての医療機関が外来診療を止めてしまいます。したがって、急患はすべて休日診療所に集まってきます。主に内科、耳鼻科、小児科ですが、この3人の医師で夜間に、約500人を診ます。仮眠すらできず、月曜日はそのまま大学病院に帰って一日の診療をします。現在肺癌の5年生存率は、組織型によっても変わりますが、おおむね48%です。そのころ、私のいた呼吸器・アレルギー内科では、外科手術の適応を外れたステージ4の肺癌患者が9割を占めていました。そのすべての患者さんが、治療の甲斐もなく、亡くなっていきました。1人の例外もありません。何千枚死亡診断書を書いたかわからないくらいです。今から考えると隔世の感があります。仕事が終わると研究室で研究するわけですが、夜中の2時、3時になるのはざらで、そんな時でも急患が入れば、駆けつけなければなりません。そのころ夜間の当直は全科でしますが、すべての患者を研修医が担当します。外来患者の9割が喘息の発作で、呼吸器科医が一番大変です。私は、なりたくてなった職業なので、これが当たり前の医師の日常だと思っていました。つらいとかきついとか思ったことはありませんが、ただ、ひたすら眠かったのを覚えています。大学病院を出てからも、生活習慣とはおそろしいもので、いくつかの救急病院で救急患者を担当することになりました。40歳近くなって、さすがに体にこたえました。大きな病気も患い、そろそろ潮時かなと思い、開業することにしました。そのころ必死で勉強したことが、開業してすぐに役に立ちました。


2025.3.24. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友

 

 

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